2011年4月10日日曜日

放射線を正しく怖がる 地道に誠実に講演活動

放射線を正しく理解してもらうために講演する高村教授

一人一人の質問に丁寧に答える
「放射線を正しく怖がってください」。長崎大学医学部の高村昇教授はチェルノブイリ原発事故の被害の実態を示しながら、そう呼びかけた。

この一カ月間、福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーとして、長崎大学大学院医歯薬総合学科長の山下俊一教授とともに県内各地を駆け巡る。住民や医療従事者たちを対象に講演会を開き、これまでに10数件以上の講師を務めてきた。1日に数件掛け持ちすることもある。

「最初のころは殺気立っていた。でも住民の人たちが正しく理解してくれて、受け入れてくれるようになった」。何が正しくて何が間違っているのか、国も自治体も信用できなくなっている住民たち。何に怯えて何を受け入れればいいのか、その判断ができずに不満やいらだちが鬱積している。高村教授はそれを十分に理解し、取り除くのが役割だという。最も大事にしているのは、信頼関係を築くことだ。

4月8日、郡山市で医療従事者や保育士を対象にした講演会。「私たちは不安でしょうがない。先生は大丈夫だというけど、本当にそうか?」。講演を終えて、厳しい口調で質問する場面もあった。福島第一原発から約50km離れたこの地でも、放射線の健康被害への不安をぬぐえていない。高村教授は住民の不安を十分受け止めようと、努めて穏やかに話す。

チェルノブイリの事故は内部被ばくが問題となった。幼い子どもたちが牛乳をはじめとして大量の放射線で汚染された食物を長年にわたって摂取し続け、甲状腺がんを発症した。

今、福島県の住民たちは、原発から少しずつ漏れ出ている空気中の放射性物質の身体へ影響を懸念している。もちろん爆発して大量の放射線が一気に広がる不安も否めない。「福島県産の野菜や魚は食べて大丈夫か?」「子どもたちを庭で遊ばせていいのか?」と日常生活の中で、どう放射線とつき合っていいのかも迷っている。

一つ確実なことは、放射性物質には半減期がある。ヨウ素で8日、セシウムは30年。実際に福島県内の放射線測定値も1カ月前に比べて、減少している。このまま何もなく、原発が沈静化に向かうなら、これまでの生活を取り戻せるのだ。


講演後も高村教授のところには、質問する人が数人並んだ。高村教授は丁寧に答えている。心意を伝えるのは本当に難しい。それでも地道に、真摯に、誠実に向き合おうとしている。